「らんまん」は史実と真逆の大フィクション
NHKの朝の連続テレビ小説「らんまん」は今月末で終わる。このドラマは現在は植物学者牧野富太郎(ドラマでは槇野万太郎)とその妻寿恵の物語として描かれている。
寿恵が貧しい家計を切り盛りしていて、万太郎は素晴らしい妻を持ったものだと感心して観ていた。寿恵を演じる浜辺美波は日本髪がよく似合う美人でぴったりはまっている。貧乏学者の万太郎は何と幸せな男だろうと思う。
ところが9月5日にスマートニュースで「研究費を『女遊び』で使い込む!植物学者・牧野富太郎の『ヤバすぎる倫理観』」という記事を読んで、本物の牧野富太郎はとんでもない破天荒の男だと知った。
ドラマは牧野富太郎という人物の一部を使って作られた大フィクションだったのだ。記事によると、裕福だった造り酒屋の実家「岸屋」を破産させるほどに荒い金遣いは有名で、その財政破綻した実家の用事で高知に戻っておいて、なぜか当地でクラシック音楽の普及活動に目覚め、ここでも巨額の私財をなげうった」という。その間に長女を亡くしている。「らんまん」ではその辺のことは描かれていない。
菓子屋の娘寿恵を見染めたのは事実だが、そのとき牧野に従姉妹の猶という妻がいて離婚したことは描かれていない。
寿恵のお陰で三菱創始者の岩崎弥太郎の知己を得ることは描かれているが、膨大な借金を助けてもらったことは描かれていない。
万太郎は結婚当初から根津の貧乏長屋に住んでいるが、本当はどこに住んでいたのだろう。飯田橋近辺の武家屋敷のあったところで、家賃も8倍だったという。その金は実家から出してもらっていたそうだ。
「らんまん」で史実と同じなのは、万太郎の家が裕福な酒屋であったこと。小学校中退であったこと。東大との関係、植物の研究ぐらいだという。
万太郎はいつも背広と着ているが、牧野にとって植物とは「愛人」で、銀座の美女に会いに行くようなパリッとした洋装をして野山での調査をしたという。地方に行くときは一等車に乗って、一流の旅館に泊まったという。そんな贅沢が薄給の助手に許されるわけもなく、彼の借金は現代の日本円に換算して数千万円にまで膨れ上がったそうだ。
でも、牧野博士は運のよい男で、二人のパトロンを得ている。岩崎弥太郎の他に、神戸の大地主で、まだ25歳の池長孟(いけなが・はじめ/たけし)が、牧野が作製した膨大な標本を担保に、彼の借金の肩代わりをしてくれただけでなく、身の回りの世話をするメイドまで付けてくれたというのだ。
牧野博士は性豪でもあったようで、13人の子どもを作ったほかに女遊びもしたり、14歳の少女を好きになったりしている。晩年には「性(せい)の力の尽きたる人は、呼吸(いき)をしている死んだ人」という歌を残しているという。
「らんまん」では清貧で植物研究一筋の真面目な万太郎として実物とは真逆な人物像が描かれているのだ。この記事を読んで、「らんまん」への興味が失われてしまった。
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そもそもNHKの大河ドラマや朝の連ドラは娯楽作品である。実在した主人公を素材に作家・脚本家が自由に想像を巡らせて、言葉は悪いがでっち上げたものだと思って間違いない。史実に忠実であったら面白くも何でもない。壮大なフィクションである。私も朝の連ドラが始まる前にウィキペディアで牧野富太郎を調べたが、学者にしては、ずいぶん破天荒な男だと思った。ただドラマでは主人公が植物学に深く打ち込むあまりに、世間常識に少し欠け?世渡り下手だったとすべて好意的に受け取られるストーリー展開になっている。本当にそうだったのか?かくして牧野富太郎の業績は素晴らしいとしても人物像は高く持ち上げられて、めでたしめでたしで終わりそうである。
私は壮大なフィクションよりも歴史の評価に耐えうるノンフィクションの作品に興味があります。
投稿: toshi | 2023年9月 7日 (木) 21時43分