NHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」を見て
6月2日に放送されたNHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」を見た。生と死の選択という重いテーマを、多系統委縮症の二人の女性を対比させることで、安楽死と生について考えさせるドキュメンタリーであった。
小島ミナさんという51歳の女性が安楽死を望んでいるのを知って、カメラで亡くなるまでを追ったものであった。彼女には年の離れた姉が二人と妹がいて、姉たちが面倒を見ていた。
多系統委縮症という病気は急速に進行するものらしく、発症を宣告されたのが48歳のときで、3年ほどで自分で動けなくなり、会話はできるがロレツがおかしくなっていた。パソコンを使ってblogを書いたりインターネットを利用していたが、指の動きが不自由になってきた。
彼女は何度か自殺を試みたが失敗に終わった。病気が進行するとベッドで寝たきりで、人工呼吸や胃瘻などで生きなければならない。そういう状態で生きることを望まなかったのだ。
彼女はスイスに安楽死を受け入れる団体があることを知り、安楽死について選択肢として考えるようになる。二人の姉は悩みながらも受け入れようとするが、妹は断固反対していた。
スイスの団体には安楽死の希望者が1700人以上申し込んで来ていて、日本からも8人の希望者がいる。安楽死希望者は増え続けているという。それで早く受け入れてもらえなければ人工呼吸器をつけなければならなくなりスイスへ行けなくなることを恐れていた。
2018年の11月にスイスから受け入れるという通知が届いた。それで姉二人が付き添ってスイスに行った。
病院では安楽死の意思が固いかどうか確かめ、2日間の考慮の時間を与え、やめたければやめてよいと言った。その間別の医師が本当に安楽死が必要な病気であるかを調べた。もしダメなら日本に帰されるのだ。
彼女は必要と認められた。その晩ホテルで最後の晩餐を姉妹で摂り、その夜は夜通し語り明かした。朝が来ると郊外の病院に移された。そこではすぐに誓約書を書かされてベッドに横たわる。腕に点滴がつけられ、点滴開始は自分で操作するのだ。点滴に薬が投入されると30秒で眠りに入り、5分ほどで命が絶えると告げられる。その一部始終は警察に報告するためのビデオに撮られる。
点滴をつけるときも、スイッチを操作するときも、その後も、穏やかな表情であった。涅槃という言葉がるがそういう悟りの境地にいたのだと思う。二人の姉たちに付き添われてお互いに有難うと感謝の言葉を述べ合い、30秒ほどで眼が閉じた。5分後に医師が死亡を確認した。52歳であった。
亡骸は日本に持って帰れないので、スイスで灰にされスイスの川に流された。スイスは山国だから川に散骨してもいいのだ。
NHKのカメラは彼女の了解のもとに、亡くなるまでの様子を収めたのだ。観る者に考えさせられるすぐれた番組であった。安楽死の問題を提起するために録画を承諾した小島ミナさんに感動した。生と死をどう考えるか自問しながら見たが結論はまだ出ていない。
もう一人の鈴木道代さんも同じ病気で、年齢も50歳でほぼ同年齢である。彼女は母親と娘に身近で世話をしてもらっているが、ベッドの上に寝たきりである。話を聞くことはできるが、自分からは話せないので、YESかNOかを瞼の動きで答える。目をつぶるとYESである。
そんな状態でも人工呼吸器をつけて生きるという選択をした。家族と一緒にいるの生きる喜びだというのだ。彼女はスイスで安楽死という選択ができることを、知っているのかどうかは不明だが、人工呼吸で生きる道を選んだのだ。
NHKは同じ病気の人を探して対比して描いたが、カメラに収まることを承諾した鈴木さんも立派だと感心した。お二人のお蔭で多くの人たちが安楽死か生きるかを考える資料を貰うことができたのだ。
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やはりと言うべきでしょうか、「週刊ポスト」6月21日号でもこの話題を取り上げています。
先のラジオ番組ではゲストだった宮下洋一さんが書いた文章を編集部が構成したようです。
内容は、ラジオで聞いたものと大差ありません。ただ、ラジオでは、通常は読者からの問い合わせなどには一切返答していないと言っていたように思いますが、雑誌の文では若干ニュアンスが違うように思えます。
ともかく大きな問題提起だったことは確かなようです。
ついでながら、このところの雑誌記事で気に掛かるのは、トランプがファーウェイを叩き続けるならば、習近平はアップルをつぶしにかかるだろうという観測です。
もしもそうなれば、それは経済「戦争」に発展し、ファーウェイもアップルも使っていない私のような貧乏人にも影響が及ぶことは必至です。
投稿: たりらりら | 2019年6月10日 (月) 14時16分
この記事を読ませてもらった昨日、夜にラジオをつけましたらTBS「荻上チキSession-22」で同じテーマを取り上げていました。
ゲストの宮下洋一さんは、「安楽死を遂げた日本人」を出版したばかりであり、今回の記事で紹介されているNHKの番組でも取材に関わったようです。
私はNHKの番組も著作も見ていませんが、安楽死に関するルポルタージュを以前から発表している宮下さんに、どうやら小島ミナさんのほうから情報を求めて接触してきたようです。
宮下さんは通常、読者からの問い合わせや要望などには一切返答していないそうですが、小島さんのメールの内容が異例だったために面会したようです。
宮下さんは極めて淡々と話をしていましたが、NHKの番組では短い時間内に二人を対比して描いたために、小島さんが生について死について、どれほど考え抜いた上で結論に達したかが十分に伝わっていなかったのではないかと心配していました。
小島さんの最期を見届けて、その死にかたに宮下さんは納得できたそうですが、それは結論に達するまでの過程をテレビで放送されたよりもわかっていたからのようです。
ですから、この日本で、軽々しい意見や浅い議論で安楽死が法制化されないことも願っていました。
投稿: たりらりら | 2019年6月 7日 (金) 14時32分