映画には、世界を必ず平和に導く美しさと力がある―大林監督―④―
◆今の時代の危険は、すべてが他人事になってしまったこと
さて、そういう危機感の中で、今年の「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」、とてもすばらしゅうございました。20年前にアメリカ帰りの別所さんが「日本でこんなものをやりたい」とおっしゃって、「できればいいな」と私も願っていました。しかし参加をさせていただいたのは今回が初めてです。
別所さんにもお伝えします。黒澤明先輩の映画へのリスペクト、映画への誇り、映画を信じる力、つまりそれは世界への平和を我々がたぐり寄せるんだという力、どうかそれを信じて、大いなる虚構のエンターテインメントの中、映画を作り続けていただければと思います。
楽しい作品がたくさんございました。今年を象徴するものとしてはね、運転手さんとタダ乗りの乗客の、友情と裏切りと、人と人とはどうやって繋がり合うのかという作品がありました。そう、人と人とはどうやって繋がり合うのか、あるいは繋がり合えないのかという希望と絶望との間にさまようのが、今年の作品でした。
しかしこの作品はあまりにもウェルメイドでね。この今の不幸な時代にこのウェルメイドはちょっと時代が違ったなという、つまりウェルメイドが存在しない時代です。したがって作品は暗い不幸な影に導かれておりました。
その今の作品の代わりに現れたのは、「窓」。窓とは世界を見渡す視点ですね。そこに過去にしかそのことのできない大人と、これから未来を生きる子どもとが、そしてその2人が繋がらないのか繋がるのか。繋がれば、きっと戦争の世代から平和の世代に行くでしょう。しかしそこが繋がらなければ、別の世界として終わってしまう。繋がるのか繋がらないのかというところに危うい期待をかけた作品がインターナショナルのプログラムにありましたね。
そしてアジアインターナショナル。これもすばらしゅうございました。今私たちはテレビ社会、情報社会のなかにおります。これはとても危険なんです。情報社会では情報が切り売りされてね、すぐ善悪で判断されてそれで終わってしまうんです。
となると、トランプの問題も、我が日本の政権の問題も、あるいは学園問題も、誰かが浮気をしたっていう問題も、巨人が連敗しているっていう問題も、等しく5分くらいの切り売り情報になりまして、等価値になってしまうんですね。で、是か非で終わっちゃうと。つまりは他人事になるんです。
今の時代の危険は、すべてが他人事になってしまったこと。こんな無責任な社会はない。そこでね、映画という力は他人事を我が事に取り戻す力です。このアジアインターナショナルの作品は、なんとテレビを捨てて、ジャングルに戻っていこうと。これは1つのユートピア幻想のようでもありますし、今私たちが切実に考えなきゃならないテーマかもしれない。
この作品が決定した後ろには、テレビ人の小倉さんがいらっしゃったということにも、大変切実な問題がございますけれど。
と同時に我々はジャングルに帰るだけじゃダメだ、原爆をやめるならサルに戻れと。3.11の前に遺言のように言われて亡くなられた我らの先人の哲学者の言葉を借りつつ、この科学文明のなかで生きて来た人間の幸せはどこまで私たちが責務を持って辿らなければならないのかということを、科学文明の落とし種、映画を作る我々は、切実に考えなければならないと思います。
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