木村草太教授が語る改憲問題とメディア―①―
友人が送ってくれた講演のまとめである。作成者は竹山克則氏。8月13日(土)、13時~16時半、JCJ(日本ジャーナリスト会議)・8月集会・JCJ賞贈賞式で行われた記念講演、「改憲問題とメディア」で、講演者憲法学者、木村草太・首都圏大学教授。
★①憲法問題をどう報じるか?・・・憲法問題を報じる場合、法律は専門的で一般の人には難しく、馴染みにくい。専門知が求められる。日本の場合は、どろどろした感情問題もあり、二重苦である。それだけに、「ぶれずに正確に発信する」ことが必要である。
憲法9条を中心に改憲勢力は三分の二を占めた。そのように一括りには纏められない。例を上げれば、おおさか維新の会も、公明も改憲に反対、自民がやると言えばついていくかもしれないが・・・先の選挙戦では消極的であった。緊急事態条項が今後改憲の中心か?!おおさか維新の松井代表は7月の記者会見で面白い発言、反対を表明した。一種のポーズかも?しれないが、知事として、地方自治に反し、中央集権的な緊急事態条項は、真正面から地方自治に対峙するわけで、単純化は実態にそぐわない。
改憲に賛成か、反対か、賛否を問う世論調査は無意味、むしろ有害とさえ考える。毎日新聞の取材、憲法のどこについて、なにを変えることになるのか?を訊かずして・・・訊き方に問題がある。「伊勢丹に行って欲しいものがあるか」と訊くようなものだ。憲法9条が定着化した時期であれば、9条の賛否を問うのは意味があった。いまは、もっと幅広く、個別具体的に考えないと意味がない。
教育無償化(おおさか維新の)問題も、憲法で禁止していない。憲法を変える必要はない。法律を定め、予算をつければいいだけのこと。おおさか維新は自信の無さを露呈したのか・・・。ともかく、国民投票に600億円、改憲全体で少なくとも850億円掛かるという試算がある。その金を奨学金に充てるとか、そんなに使うほど、国民的に論争点があるか?改憲の発議についてだけでもメディアは相当な紙面を割ける。大したことしていない、コスト対価値を考えれば、大きな社会的損失である。
憲法9条改正は安保法制成立でやりにくくなった。「憲法を改正すべきだと思いますか?]世論調査の無意味さについて、講師は次のデータを示した。
♦♦毎日新聞世論調査(2016年7月16日・17日)~憲法9条改正~
「改正には反対だ」=39%、「改正して自衛隊の役割や限界を明記すべきだ」=38%、「改正して、自衛隊を他国同様『国防軍』にすべきだ」=8%
全面的改正は殆ど支持なし、『国防軍』創設は絶望的、自衛隊の現状を憲法に書き込む、安保法制は専守防衛まで、個別的自衛権で改憲は難しい。集団的自衛権は合憲とする合憲性は打ち消されている。
♦♦朝日新聞世論調査(2016年3月)~「集団的自衛権を使えるようにしたり、自衛隊の海外活動を広げたりする安全保障関連法に、賛成ですか?反対ですか?」
賛成=34%、反対=53%
♦♦憲法9条改正論議の現状、主要三点
♦(改憲提案の種類)⇒①個別的自衛権・自衛隊を明記、(国民投票における争点)⇒否決・可決いずれも現状維持なので争点が不明、(可決の見通し)⇒可決可能性あり。
♦(改憲提案の種類)⇒②個別的自衛権・自衛隊+集団的自衛権限定容認、(国民投票における争点)⇒2015年安保法制を承認するかどうか?(可決の見通し)⇒厳しい。
♦(改憲提案の種類)⇒③国防軍の創設、(国民投票における争点)⇒多国籍軍参加を承認するかどうか?(可決の見通し)⇒絶望的
前述の通り、改憲問題を取り扱う場合は、論点を明確にする必要がある。本当に改憲勢力三分の二なのか??
★②集団的自衛権と憲法をどう報じるか?・・・憲法9条をどう報ずべきか?毎日新聞の5月3日の対談、(毎日の悪口ばかりになるが)著作「憲法の涙」にリベラル、リベラリズムについての下り、井上さんは恩師でもあり、沖縄問題もいっしょなら、自衛隊は憲法9条違反、集団的自衛権も・・・井上論そのものであり、これまでの政府解釈をまったく勉強していないことがよくわかる。9条ではなく、13条、集団的自衛権に行政権は入らない、それを御存じない。相手に誤魔化されてしまう。
♦♦集団的自衛権も個別的自衛権も、国際法上、国家又は国家に準ずる実力行使、いっさいの武力行使は不行使とされ、違法である(国連憲章2条4項)。国連安保理の42条と51条に例外規定*がある。集団的・個別的と区別するのは日本のみであり、メディアはもっと突っ込みを。簡単に言うと、発動要件は被害国からの要請があってのこと。縄文土器と、がんもどきと、語尾は同じ“ドキ”であるように、自衛権と語尾はいっしょである、国際法の教科書に明確に書いてあることだ。
*武力不行使の例外規定、①集団的安全保障措置(憲章・42条)の発動要件⇒国連安保理の決議(決議の内容が不明確な場合も多い)
②個別的自衛権の行使(憲章・51条)の発動要件⇒武力攻撃の発生⇒被害国独自の判断 ③集団的自衛権の行使(憲章・51条)の発動要件⇒武力攻撃の発生、被害国の要請⇒各国独自の判断
♦♦憲法9条の説明の仕方・・・政権の説明は日替わりメニュー、論点が安定しない。憲法の原則、作用法的な根拠規定の不在がある。
9条1項=国際紛争解決のための武力行使・戦争の放棄、9条2項=軍編成権の否定、戦力不保持、交戦権の否定。次の三つの論点で整理すると、
♦♦(1)憲法9条の禁止範囲は?・・・♦「国際紛争解決のための」、武力行使、戦力保有の禁止、(「国際紛争解決のため」ではない武力行使は禁止されていない)というA説。♦武力行使一般を禁じているというB説。殆ど支持がない、安倍政権はあらゆる事態の武力行使全般をと、9条2項の修正説(芦田首相)を採らないとしているが、上手く伝わっていない。
♦♦(2)憲法9条の一般禁止の例外はあるか?(☚B説を採る場合)・・・例外はないとの見解(個別的自衛権違憲説)もあるが、政府は例外あり、13条を根拠に、その範囲ないとして説明してきた(個別的自衛権合憲説)。
合憲か否かの争点は、歯が痛むからと歯科医院に行ったら歯を削られた、傷害罪だ(204条)、否、正当業務行為だ(35条)という類の議論だ。13条は、日本政府に対し、国内の安全(国民の生命・自由・幸福追求の権利)を保護する義務を課している。
他国防衛について、例外を許容した条文は存在しない。(集団的自衛権、国連軍参加は憲法違反)
♦♦(3)憲法13条で根拠づけられる範囲に、限定的な集団的自衛権の行使は含まれているか?(☚個別的自衛権合憲説を採る場合)・・・含まれていないという説、含まれているという説(安倍政権の見解)。政府は13条に集団的自衛権も含まれると、個別的治自衛権13条を白抜きにした。幸福追求権(13条を例外に)、2015年の集団的自衛権など、メディアは論点整理が必要である。
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