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2016年8月25日 (木)

むのたけじさんが亡くなった今

 むのたけじさんが101歳で亡くなられた。朝日新聞によると、今年5月3日に東京都江東区での憲法集会で「日本国憲法があったおかげで戦後71年間、日本人は1人も戦死せず、相手も戦死させなかった」と話された。

  また、22日の社説では、若い方々に申しあげたいと、「戦場では従軍記者も兵士と同じ心境になる。それは死にたくなければ相手を殺せ。正気を保てるのはせいぜい3日。それからは道徳観が崩れ、女性に乱暴したり、物を盗んだり、証拠を消すために火をつけたりする。こういう戦争で社会の正義が実現できるでしょうか。できるわけありません。だからこそ、戦争は決して許されない。それを私たち古い世代は許してしまった」と熱く訴えたことを引用している。 

  その同じ日の下段の社説では「南スーダン 人道危機を食い止めよ」という見出しで次のように書いている。

  「アフリカの南スーダンで7月、大統領派と副大統領はの武力衝突が起きた。慄然とさせられるのは、国連機関や人権団体が現地から伝える民間人の被害である。

  両派の戦闘に住民が巻き込まれただけではない。大勢が避難した国連の避難施設を狙った銃撃や砲撃。対立民族出身と判明した住民の殺害。未成年を含む女性に対する性的暴行。商店や倉庫の略奪―。蛮行の数々が国民を守るべき兵士によってくり広げられているという」

  まさにむのたけじしさんが訴えた、戦争による人間の狂気が今も行われているのである。

  むのたけじさんは、戦時中従軍記者として戦地を取材しながら、真実を伝えられなかった自責の念から、終戦の日に朝日新聞を退社したという。この日に即刻退社したことを凄い決断だと思う。花森安治氏がその日に筆を折ったのと同じである。

 その後故郷の秋田県に戻り、48年に「たいまつ」を創刊し、地方を拠点に反戦、平和、民主主義を守る執筆と運動を続けたのだ。

  社説ではこう書いている。「むのさんはかつて、戦時中の朝日新聞社の空気をこう振り返っている。検閲官が社に来た記憶はない。軍部におもねる記者は1割に満たなかった。残る9割は自己規制で筆を曲げた。」

  私は朝日などマスコミは、厳しい検閲下に置かれて、社には検閲官が来たと思っていた。NHKは放送原稿を事前にチェックされていたことをNHKの朝ドラ「花子とアン」でやっていた。

 しかし、むのさんの話では自主規制を徹底していたのだ。彼は「権力と問題を起こすまいと自分たちの原稿に自分たちで検閲を加える。検閲よりはるかに有害であった」と言ってる。まさにその通りである。

  現在多くの良識ある人たちは、昨今の安倍政権によるマスコミへの圧力とNHKに見るような介入で自主規制が強まっていることを憂慮している。またマスコミの自殺行為が始まったのだ。

  朝日新聞の社説は「戦火を交えるのは、戦争の最後の段階である。報道が真実を伝えることをためらい、民衆がものを言いにくくなった時、戦争は静かに始まる」と書く。

 そして、「だから、権力の過ちを見逃さない目と、抑圧される者の声を聞き逃さない耳を持ち、時代の空気に抗して声をあげ続けねばならない」と結んでいる。

 朝日新聞よ、その言やよし。決して忘れるなと言いたい。そして他のマスコミにも権力に屈しない、おもねない、反骨のジャーナリズムであってほしいと切に願う。むのたけじ氏も最後までそれを訴え続けられたのだ。

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戦争と平和」カテゴリの記事

コメント

私も戦時下のマスコミは軍の圧力で真実を報道できなかったと思っていましたが、そうではないようですね。テレビや新聞社にとって大事なのは広告収入であり、視聴率や売上部数ですね。軍事関連企業がすべて広告を止めれば、広告収入は激減しますね。政府は主要な情報源でもあるので、戦時中も今も政府や軍に忖度することが売り上げの増加に直結するようですね。高市大臣が停波発言をしてもそれに賛同するジャーナリストがとても少なかったことに驚きました。ひとたび戦争が始まれば、人間性も道徳観も罪悪感もすべてがマヒするだけでなく、戦争が終わっても人を殺したトラウマや放射能障害に死ぬまでずっと苦しむという事実に目を向けなければいけませんね。NHKが大本営発表のように政府批判を止めて、新聞は経済的利益を守るために嫌韓反中を煽る記事で部数減少を止めようとする状況は戦前と変わらないですね。むのさんのようなジャーナリストが数えるほどしかいない現状は情けないですね。

投稿: danny | 2016年8月25日 (木) 09時48分

私はむのたけじ氏のことについて詳しくは知らなかったが、中日新聞でもかなりの紙面を割いて取りあげていたので改めて彼が戦後一貫して反骨ジャーナリストであったことを知った。100歳を超えるまでその意思をつらぬいたとは素晴らしいことである。NHKも彼の足跡を特集番組としてとりあげたらと思うが、それこそ時の政権の意思を忖度し、簡単な死亡の事実を報道するのがせいぜいであろう。
新聞報道とはえらい違いである。一方、北朝鮮の潜水艦からの弾道ミサイル発射のニュースはしっかり報道してくれた。一般国民の多くは反戦平和を願うだけで平和は維持できないと洗脳されてしまう?

投稿: toshi | 2016年8月25日 (木) 08時51分

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