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2016年8月11日 (木)

増谷文雄「仏教入門」―㊱―

 釈尊の説法は、かくの如く、時に臨み機に応じてなされた。

 釈尊の弟子の中に、朱利槃特という頭のわるい弟子があった。よく物を忘れる彼は、どうかすると、自分の姓名さえも忘れることがあった。お前はもの覚えが悪いからというので、釈尊は彼に、つぎのような極く簡単な文句を教えた。

「三業に悪を造らず。有情を傷めず。正念に空を観ずれば、無益の苦しみを免れるべし」

 ともかくこれだけを暗誦するように命ぜられた。この短い文句の中にも、一応は仏教の根本精神がつくされている。だが彼は、たったこれだけの文句がとうしても覚えられなかった。毎日彼は、人のいない野原へ行って、「三業に悪を造らず・・・」とやるのだが、どうしても暗誦できない。近くで聞いている牛飼いの子供が覚えてしまっても、まだ彼は覚えられぬ。自分で自分に愛憎がつきて来た。そしてある日のこと、彼は祇園精舎の門前にしょんぼりと立っていた。その姿を見て釈尊は静かに彼に歩み寄った。

「おまえは、そこで何をしているのか」

「師よ、私はどうしてこんな愚かな人間でございましょうか。私にはとても・・・」

すると師は、彼の言葉を制して、慈悲のこもった言葉で仰せられた。

「いやお前は、決して真のおろか者lではない。愚者でありながら自分の愚かさを知らぬのが本当のおろか者である。お前はそうではない。決して真のおろか者ではない」

そう言って労わりながら、師は彼に1本の箒を与え、あらためて一句を教えた。

「塵を払わん、垢を除かん」

 それから彼は毎日、この一句を誦しながら庭の掃除をはじめた。塵を箒きながら彼は、一生懸命にこの句を考えた。そして幾年かの後には、ついに自心の塵垢を除き去って、愚鈍第一の朱利槃特が神通説法第一の阿羅漢と言われるまでになったという。

 かくのごとく、釈尊の説法はいつも時に臨み機に応じてなされた。山の上から火の燃えさかるのを見ると、世間は煩悩に燃えているのだと教えた。女を探している若者たちに合うと、自分自身をさがすことの大切さを説いた。愚かなるものに対しては愚かなものに適うように教え、賢いものには賢いものに応ずるように説いた。したがって、その説法には数の限りがなかった。だが、その数かぎりのない説法の様式にも、おのづから臨機応変的なものと基本的なものとの差別が見られる。そして、その最も基本的なものは、かの四諦八正道のおしえであった。

 次からはいよいよ釈迦の教えの中核となる四諦八正道が解説される。

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