NHK終戦の日スペシャルドラマ「百合子さんの絵本」がよかった
7月30日にNHKで放送された終戦の日スペシャルドラマ「百合子さんの絵本」―陸軍武官小野寺夫婦の戦争―を見たが、とてもよかった。戦後71年、こういう戦時中の知られざる事実がまだあったということを知り、それを発掘してドラマ化したことを歓迎する。
小野寺大佐は陸軍参謀本部ロシア課に所属した情報士官であった。参謀本部と意見が合わないことがあって、永世中立国のスエーデン大使館の武官にさせられる。彼はロシア語とドイツ語が堪能であった。当初単身赴任でスエーデンに行くのだが、上層部から奥さんを呼ぶように言われて、奥さんは末っ子だけを連れて夫の所に向かう。
着いた日からすぐにやらされたことは、暗号の電報を送る仕事と、参謀本部から送られてきた暗号電文の解読であった。奥さんを送ったのは、一番信頼を置ける人物として、重要な暗号作業を担わさせるためであったのだ。
暗号を解読するための乱数表の管理は厳重で、外出するときには肌に付けてでるのであった。また、武官は情報を集めるいわばスパイであるから、外に出てもいつも危険が隣り合わせであった。
小野寺武官は誠実な人柄で、各国のスパイから信頼され、貴重な情報を手に入れることができたそうだ。小野寺武官を香川照之が好演した。
小野寺大佐の奥さんが百合子さんで、祖父は陸軍大将という家系に育ち、語学も堪能であったようだ。原文の絵本を子どもたちに読み聞かせるシーンが出て来る。その役を薬師丸ひろ子が演じたがこれも好演であった。若い頃から年をとるまでを巧みに演じていた。
小野寺はナチスドイツ追われたポーランド人のイワノフを雇っていた。イワノフはロシアの情報を手に入れ小野寺に渡していた。日本にドイツがロシアを攻めるなどの大事な情報を送り続けるのだが、ことごとく無視される。日本が真珠湾攻撃をし、アメリカが参戦したことを非常に憂えていた。戦況が不利になりやがて日本は負けると信じていた。
そんなある日、小野寺武官は信頼するイワノフから連合国がヤルタ会談で交わした秘密を知る。それは「ソ連が対日戦に参加を決めた」というものであった。百合子は夫に従い、その情報を本部に送り続けた。本国が受け取れば必ず和平に動くと信じていたのだ。しかし、一億総玉砕さえ叫ぶ軍部は受け入れるはずはなく、その情報は活かされることなく、米国による原爆投下、ソ連の参戦となり、敗戦の日を迎えるのであった。
日本がアメリカの圧倒的な物量と戦力の前に、米軍による沖縄上陸、B29による日本本土焦土作戦、原爆投下などで惨めな負け方をし、はかりしれない犠牲を出した。そうなる前になぜ戦争を終わらせることができなかったのか。
小野寺武官のような情報源もあったのにそれを無視して8月15日まで戦争を引きずった軍部の責任は極めて重大である。それにしてもあの戦時中に情報の正確な判断をして参謀本部に送り続けた軍人がいたことはすごいことだ。
小野寺武官は戦後はそうしたことを語ろうとしなっかったが、最後に子どもたちに話すことにした。百合子さんは戦後、 「ムーミンパパの思い出」などムーミンシリーズや児童文学の翻訳をした。私はムーミンが大好きで娘と一緒にテレビを見たが、それを翻訳したのが小野寺百合子さんで、戦時中このドラマにあるような戦争の最前線で働いていたということも初めて知った。
改めて戦争の非情な一面を知ることが出来、戦争の過酷さを、戦争を指導する連中の非道さを考えさせられた。
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今日の朝日新聞に広島の原爆で捕虜の米兵が12名亡くなったことにまつわるエピソードが出ていました。オバマ大統領もその事実を認めたようです。核兵器をなくさなければなりません。
投稿: らら | 2016年8月 6日 (土) 14時17分
恥ずかしながら、このブログを読むまで「 百合子さんの絵本」の
ドラマについてまったく知らなかった。大変興味深いストーリー
展開で、再放送でもあればぜひ見たいと思う。毎年この時期になると終戦秘話が必ずと言っていいほど放映される。今晩も「決断なき原爆投下」という秘話がNHKで放映される。トルーマンが原爆投下を決断したというのが一般的であるが、実際は終始、軍のペースで進められ、大統領自身は市街地へ投下することは知らなかったのだと。ルーズベルトが死亡し急遽大統領に就任したばかりで、軍の暴走を止める余裕はなかった?歴史秘話には( たら )が
多いが、もしルーズベルトが生きていたら市街地への原爆投下は
なかったかもしれない。
投稿: Toshi | 2016年8月 6日 (土) 07時23分