凄い労作―参院選テレビ報道の検証―③
2、争点の伝え方――改憲問題
今回の選挙で、改憲を目指す勢力が3分の2以上を占めれば、戦後初めて衆参両院で改憲勢力が3分の2を超え、憲法改定の動きが一気に加速することが予想された。
民進党、共産党など野党4党は、安保法制を廃止し、立憲主義を取り戻す、という基本的合意に基づき、全国32の1人区の選挙区で野党統一候補を実現させた。戦後例をみない選挙の取り組みであり、その共通政策には憲法改定に反対する、という確認が含まれていた。
こうしたことからみても、選挙の重大な争点が「憲法改正」であることは明白だった。
しかし、自民・公明両党は、改憲問題は争点ではない、と主張、街頭演説でも全く触れなかった。
この「改憲隠し」にたいして、テレビニュースはどのような姿勢で臨んだのだろうか。
各局の争点の設定の内容を見てみよう。
「ニュースウオッチ9」は、6月27日に「経済対策・アベノミクス」28日に「社会保障」29日に「安全保障と憲法」という3つの争点をあげた。
「報道ステーション」は、6月20日「憲法」23日「社会保障と財源」27日「イギリスEU離脱への対応」28日「低年金・無年金問題」7月5日「経済、アベノミクス」7月6日「安保」と、6つの争点を設定した。
「NEWS23」は、6月29日に「憲法」7月7日に「経済」、「NEWS ZERO」は7月1日に「アベノミクス」8日に「憲法」を取り上げている。
「ニュース7」では、「改憲問題」を争点と設定した企画はなかった。また「みんなのニュース」はアベノミクスが選挙の争点という姿勢が基本で、改憲問題を独自に扱っていない。
とくに「ニュース7」は6月22日、公示日の放送で冒頭、武田キャスターが「安倍政権の経済政策、アベノミクスなどが争点になる第24回参議院選挙」と述べた。これは政権の主張と重なる表現で、この番組では争点としての改憲問題が意識されていないことを示していた。
これらの争点設定を見る限り、4つの番組が自公の「改憲隠し」には従わず、改憲問題を一応の争点として掲げていたと言える。
以下、改憲問題を扱った番組の内容を振り返ってみる。
「報道ステーション」は6月20日、参院選の争点シリーズのトップに「憲法改正」を挙げ、10分近くで報じた。
番組はまず「憲法改正」が投票先を決める決め手になるかという問いに、51%が「そう思う」と答え、「思わない」33%を上回ったという世論調査の結果を伝え、「今日は『憲法改正』について考える、とした。
続いて、1月の記者会見での首相の「憲法改正については参院選でしっかり訴えてまいります」という発言のVTRを挿入、ナレーションで「40回の街頭演説で憲法改正について全く触れていない」と指摘した。前言を平然と翻す首相の態度を端的に示す編集だった。
このあと、自民党草案の「日本国は天皇を戴く国家とする」、という前文、「国防軍の創設」「国旗、国歌の尊重、家族の助け合い、憲法尊重等々、国民の義務の規定」の増加など、草案の重要部分を画面上に示した上で、各党の主張を整理、紹介した。
最後に後藤謙次コメンテーターが、「安倍首相は選挙後憲法調査会を動かしていく、と言った。本音が出てきた。どんどん憲法問題の議論を深めていきたい」と指摘、富川キャスターは「ここ最近の選挙のあとに、秘密保護法や安保法制とか、あれっ国民の信を問うてないじゃないか、ということもありましたからね。ちゃんと争点にしてくれればね」などと述べている。改憲を争点にしない傾向を暗に批判したと受け取れるコメントだった。
このほか「報道ステーション」は、6月21日のスタジオ党首討論で、冒頭から20分近く憲法を争点にした。7月7日は東京選挙区の候補に改憲問題にしぼってインタビューしている。
自民党の改憲草案にまで踏み込むニュースが少ないなかで、こうした「報道ステーション」の姿勢は評価に値する。
「ニュースウオッチ9」は、6月29日、参院選の争点のひとつとして「安全保障と憲法」をあげ、全体で11分、うち改憲については7分弱で伝えた。
憲法記念日の改憲派、護憲派の集会のVTRのあと、各党の主張を記者が整理して約5分で解説している。
キャスターが「私たちは今回の選挙で、憲法についても大きな選択を問われているということか?」と尋ねたのに対し、記者が「国の大きな方向性を決めるという意味では、子や孫の世代に深く関わる問題といえる」と答えている。このコメントは評価できるが、それほどの問題を、各党の主張を5分間羅列して終わるだけの放送ではあまりに簡略に過ぎた。
このコーナーでは、自民党の改憲草案の内容は紹介されていない。また、「報道ステーション」で紹介された安倍首相の「……参院選でしっかり訴えてまいります」という記者会見の発言は組み込まれていない。この発言を紹介することは選挙中の安倍首相の姿勢を批判することになる。避けたのではないかという疑いを持たざるを得ない。自民党が目指す改憲の方向と具体的な内容を伝えないことと併せて、「ニュースウオッチ9」の「改憲」の争点解説は腰の引けたものとなっていた。
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