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2016年7月23日 (土)

参議院選は負けてないという伊藤氏の見方

 友人から送られてきた「参議院選は負けていない」という伊藤千尋氏の講演がよい見方をしているので取り上げた。

 

13日、東京都知事選に向けて講演をしました。テーマは「暮らしと平和を守り、憲法をいかす東京を!」で、場所は僕が6月の市長選で野党統一候補の共同代表を務めた狛江市です。こんなことを話しました。

1. 参議院選挙は「負けた」のか?
 危機感を抱いて選挙を戦った人々は「負けた」と思っていますが、そうでしょうか?
 

過去3回の参議院選挙の比例区の得票を与党系と野党系に分けて比べると、6年前は2965万:2425万、3年前は3714万:1354万、今回は3252万:1914万です。おおまかに言えば、順に「5:4」「5:2」「5:3」です。つまり有権者の野党系への支持は明らかに盛り返したのです。
 

選挙区を見ると、自民党が獲得した議席はこの3回の選挙で「39-47-37」と減っています。しかも今回、沖縄と福島の一人区で自民の現職大臣が落選しました。つまり自民党は圧勝どころか、勝ってもいないのです。
 

その一人区を見ると、前回は31の一人区のうち「自民29-野党系2」で自民の圧勝でした。しかし、今回は32のうち「自民21-野党系11」と2:1まで挽回しました。
 

野党系が勝ったのは秋田以外のすべての東北(青森、岩手、宮城、山形、福島)、北陸の新潟、中部は山梨、長野、三重、そして九州の大分県です。惜敗した福井、岡山、愛媛、長崎県を入れると、全国を縦断して野党共闘が具体的に結果を生んだことがわかります。
 

さらに言えば、共闘により予想以上の票が入りました。たとえば山形と愛媛の野党統一候補が得た票は、それぞれの地域の4野党が得た比例票の合計の1.7倍です。また、北海道は4月の第5区補欠選挙の経験がそのまま影響し、3人区で野党系が2議席を得ました。また、沖縄で勝ったし、鹿児島では反原発知事が誕生しました。
 

野党系が「勝った」とは言いませんが、けっして「負けてはいない」のです。

2. 勘違い-なぜ「負けた」と思うのか

 

「負けた」と思うのは、結果として憲法改悪の発議に必要な「3分の2を取られたから」です。しかし今回、憲法が争点となったのではありません。ほとんどの有権者は憲法を考えて判断したのではありません。安倍首相が選挙で言ったのも「アベノミクス」だけでした。「負けた」と思うみなさんは、憲法を争点にして負けたと勝手に勘違いしているのではないでしょうか?
 

朝日新聞の世論調査では、「安倍政権に求める」のは社会保障32%、景気と雇用29%で憲法は6%でした。つまり、国民が求めているのは「安定した生活」なのです。有権者の「3分の2」が憲法改定で与党を支持しているのではありません。
 

もちろん安倍首相は選挙結果を背に改憲に突っ走るでしょう。それは2013年の参院選で「デフレ脱却」のみを主張した後に秘密保護法を成立させ、集団的自衛権行使の閣議決定をし、 2014年の総選挙で「アベノミクス」のみを言った後に戦争法を成立させた過去を見ても明らかです。ここで必要なのは、まず我々自身が勘違いしないことです。

3. 参議院選挙の評価と教訓
 

今回の選挙で明らかになったことは、日本列島の南北から国民がじわじわと安倍政権を追い詰めていることです。そして正規なセオリーを踏めば勝つ、しかも競り勝つということです。
 

では、「勝てなかった」のはなぜでしょうか? 
 同じ世論調査で、今回の結果となった理由を聴いています。「安倍政権の政策が評価されたから」は、たった15%でした。そして71%もの人が指摘したのが「野党に魅力がなかった」です。

 

そうです。安倍政権が評価されたのではありません。問題は野党側にあるのです。野党が魅力的であれば、有権者は野党に票を入れたのです。逆に言えば、有権者は野党に期待しているのです。
 

そこで思い当たるのが南米チリの1988年の国民投票です。

 (その2)

4. 独裁をはねかえしたチリ国民

 南米チリは1973年9月11日のクーデターで軍事独裁政権となりましたが、10年後に民主化を求める抗議行動が起きました。抗議のデモに行けば警官に殴られ逮捕されます。多くの人はそこまで勇気がありません。しかし、何かをしないではいられなかった。彼らは、歌と言う形で独裁反対の意志を表明しました。テーマソングとなったのがベートーベンの「歓喜の歌」です。
 

 僕が泊まったホテルのボーイさんは客に朝食を運びながら「歓喜の歌」のメロディーを小さく口笛で吹きました。昼の取材で乗ったタクシーの運転手さんは運転しながら「歓喜の歌」をハミングしました。夕方に街を歩いたさいに見かけた街角の笛売りは「歓喜の歌」を演奏しながらオカリナを売りました。「苦悩を通じて歓喜に至る」というこの歌に、人々はチリの実情への不満と未来への希望を込めたのです。
 

 1988年には、軍事政権を今後も続けるか、民主主義に戻すかを問う国民投票が行われました。軍事政権は自信満々でした。だって、クーデター以来の15年間、マスコミでは検閲を敷いて軍政を称える報道しか流さなかった。表立って軍政を批判する声など聞かれなかったからです。
 

 それは野党側の政治家も同じでした。しかも、軍政側は一枚岩でしたが、野党は17党に分かれていました。野党の足並みが整わないことは今の日本どころではなかった。軍政に反対して運動する人ほど状況に絶望し、投票をしても勝つはずがないと思い込みました。
 

 余裕しゃくしゃくの政権側は、選挙前に1か月ほど検閲を部分解除しました。1日にたった15分、それも深夜、野党側が作った番組をテレビで放映できるようにしたのです。民主化を求める国際世論に配慮したのですが、一つの野党あたり1分もないのですから、どうせ影響力はないと高をくくったのです。
 

 ここで野党側は結束しました。民主主義の一点に置いて団結したのです。共同で番組を作ることになりました。最初、野党の年配の政治家が主張したのは「どうせ負けるのだから、このさい軍政の悪をあげつらおう」ということです。軍事政権下で市民が虐殺された暗い過去を告発する暗い映像が作られました。そこに異議をはさんだのが若者です。
 

 「勝つ気があるのか? 勝つためには暗い過去ではなく、明るい未来と夢を訴えなくちゃいけない」と主張しました。「みんな本音では民主主義にしたいと思っている。大切なのは有権者の本音を引き出すことだ。そのためには希望を語ることだ」と。こうして作られたのが「チレ! ラ・アレグリア・ジャ・ビエネ(チリよ、歓喜がもうやって来る)」というキャッチフレーズです。軽快なメロディーに乗せてテーマソングも作られました。
 

 そうです。あの困難な苦悩の時代に求めた歓喜が、今回のたった一回の投票で実現することを示したのです。口ずさみやすいこのメロディーは、瞬く間に全国に広がりました。軍人の子どもも街で歌いました。15年の沈鬱な空気は、たった1カ月で変わりました。
 

 国民投票の結果は、55%:44%で民主主義の勝利でした。こうしてチリの国民は平和な投票によって独裁政権を変えたのです。そのキーワードが「希望」です。
 

 日本の運動はえてして、政権が「ダメだ」とか、戦争法を「廃止しろ」とか、税金を私物化「するな」とか、否定的な言葉を唱えがちです。デモのさいにも、こういった言葉がよく叫ばれます。しかし、否定的な言葉は、聞いている市民に不快感を与えます。「じゃ、あんたたちはどうしたらいいと思っているのか? 不満しか言えないのか?」というごく自然な反発が生まれます。
大切なのは希望を語ることです。聞いている人々が納得できる、明るく、かつ具体的な未来像を示すことです。

 

 英国といえば、先のEU離脱を思い浮かべるでしょうが、東京都知事選に当たるのが首都ロンドンの市長選挙です。この5月に行われたロンドン市長選挙では野党、労働党のサディク・カーン氏(45)が当選しました。彼はイスラム教徒です。父はパキスタン移民のバス運転手で、自らは人権派弁護士です。
 

 彼が当選後の第一声で語ったのは「市民は恐怖より希望を選んだ」という言葉でした。イスラム教徒で移民の子という二重苦を背負う彼が支持を集めることができたのは、「希望」を語ったからです。それが有権者の心に響いたのです。

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コメント

なかなか興味深い話で正鵠を射ているように思える。おかげで伊藤千尋氏なるジャーナリストを初めて知った。参議院選挙で政権与党が争点としたアベノミクスを過半数以上の有権者が評価していないのに、いろいろな見方があるにせよ議席数では圧倒してしまうのは不思議な現象である。野党が具体的で魅力ある政策を提示しえてないせいであろう。特定機密保持法も安保法制も尻に火がつかない限り関係ないと思うのが庶民感覚かもしれない。資本主義はほかっておけば暴走し、格差は拡大の一途を辿るから私は
政治の果たす役割は社会保障の充実、弱者保護、適正な所得の再分配にあると思う。

投稿: Toshi | 2016年7月23日 (土) 08時27分

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