面白かった「暗幕のゲルニカ」
以前に原田マハの「楽園のカンバス」を読んで特徴のあるストーリー展開に引き入れられた。先日朝日新聞の書評欄で、同じ著者が「暗幕のゲルニカ」という書名の小説を書いたことを知った。それで是非読んで観たいと思い、書店に出かけて購入した。
357ページあるこの本は、二本立てで物語が進行している。一つは20世紀パートで、パブロ・ピカソの代表作である「ゲルニカ」の誕生とその後の数奇な運命を辿ったものである。もう一つは21世紀パートで、アメリカニューヨークの有名なMOMA(近代美術館)のキュレーターの八神瑶子が企画した「ピカソの戦争美術展開催までの物語である。
最後のページの説明によると、この小説は史実にもとづいたフィクションであるいう。小説を書くに当たって参考にした多くの文献のリストも付されている。
20世紀の部分は、スペインの大富豪パルド・イグナシオとMoMA理事長のルース・ロックフェラー以外は全部実在の人物であるそうだ。このパートで主役はピカソの恋人の写真家ドラ・マールである。21世紀の部分は全て架空の人物であるという。
私はニューヨークのMoMAには行ったことがあり、また多分国連本部でタペストリーを見たのだと思うのだが、「ゲルニカ」も見た記憶がある。そういうこともあって大変興味深く読み進めることができた。
この二本立てで同時進行する構成は初めて読んだが、大変面白いやり方だと思う。共通の材料は「ゲルニカ」である。スペイン内乱のときにナチスドイツの爆撃で壊滅されたバスク地方の都市ゲルニカ。それに怒りを燃やしてピカソは超大作「ゲルニカ」を完成させた。
この地球から戦争やテロなどをなくしたいという強い思いをピカソは絵筆と絵具とキャンバスによって表現をしたのである。
「暗幕のゲルニカ」のテーマは、戦争やテロをなくし、誰もが平和に暮らせる世の中をといういわば悲願である。「悲願」と私が表現したのは、人類は今も核兵器を捨てることができず、地球のどこかで戦争があり、70年間戦争のなかった日本でも世界で頻発するテロリズムに怯えている。
先だってのGサミットでは幸いテロは起こらなかったが、これから先いつテロに襲われるかもしれないのだ。
いかなる名分と目的であろうと、人が武器を使用して殺し合うことは1日も早くやめなければならない。しかし、止めることは非常に難しいのが現状である。まさに人類の悲願である。
この小説では、何度も何度もその悲願が訴えられている。時代背景としては1937年から2003年6月までである。その間にスペイン内乱や第二次世界大戦があり、あの9.11のテロやアメリカのイラク侵攻などがある。特に9.11のワールド・トレードセンタービルへのテロとイラク侵攻が大きく扱われている。
架空のスペイン大富豪パルド・イグナシオ、ルース・ロックフェラーそしてピカソ研究の世界的権威日本人の八神瑶子を設定し、実在のMoMAやレイナソフィア美術館や国連などを舞台にフィクションの物語を実際にあったことのように錯覚させて読ませる。原田マハ独特のユニークなやり方に引き込まれた。
ストーリーなどを書かないは、これから読んでみようという人に興をそがせるからである。
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