安保関連法案国会審議・テレビニュースはどう伝えたかー⑨―
2、ニュース番組は法案の問題点や政府・与党の動きにどう向き合ったか
この間のテレビニュースには、法案がどのような内容であり、またどのような問題をはらんでいたかを、国会審議、専門家の考察、記者解説などで明らかにする努力が求められていた。
また、政府・与党の、強行採決をふくむ国会運営について、各番組がどのように向き合い、伝えたかも重要なモニターのポイントだった。この点を見ていくことにする。
◆安保法案と憲法との関係。砂川判決を集団的自衛権行使の根拠とすることの
検証
6月4日、衆議院憲法審査会で、与党推薦の参考人を含む3人の憲法学者全員が、「安保法案は“違憲”」と衝撃的な証言を行った。
この事件をきっかけに、安保法案が違憲か合憲かという議論が国会でも展開されることになる。政権側は、違憲かどうかを決めるのは憲法学者ではなく、最高裁だとして、最高裁砂川判決を集団的自衛権を認めたものだと主張した。
こうした議論にたいして、正面から取り組んだのは「報道ステーション」と「NEWS23」であった。
「報道ステーション」は、『憲法判例百選』の執筆者である憲法学者198人対象に緊急アンケートを行い、その結果を6月15日の放送で発表した。
それによると、回答したのは149人、そのうち憲法違反の疑いはない、としたのはわずか3人、「憲法違反」127人、「違憲の疑いがある」19人という結果であった。番組はこの結果をもとに、アンケートに協力した憲法学者数人のインタビューを行うなど、時間をかけて安保法案と憲法の関係を特集した。その上で、砂川判決について、憲法研究者の木村草太氏がコメントしている。
木村氏は「(砂川判決は)日米安保条約に基づく米軍の駐留の合憲性が問題になっただけで、判決文のなかには、『自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別として』という文章が出てきて、個別的自衛権が合憲かどうかさえ、今回は判断しませんよ、という文章が出ている。判決をちゃんと読めばこれを根拠にするわけがない。個別的自衛権の判断も留保している判決が、まして集団的自衛権行使の根拠になるわけがない。」と指摘した。
9月14日の放送では、砂川判決当時の最高裁判事、入江俊郎氏の書庫から砂川判決の判例集を発見し、そこに書き込まれた判事のメモを紹介した。
そこには「(判決は)『自衛のための措置をとりうる』とまでいうが、『自衛のために必要な武力、自衛施設を持ってよい』とまでは云はない」、と書かれていた。
このメモを受けて番組は、「砂川判決がそもそも自衛隊の存在自体にすら踏み込んでいない」と指摘、「集団的自衛権の行使まで射程に入れていたなどと言うことがあり得るのだろうか」と疑問を呈している。
「NEWS23」は、6月8日、9日、10 日と連続して安保法案と憲法問題を取り上げている。
6月8日は、安保法案に反対する憲法研究者199人の大パネルをスタジオに置き、与党推薦の憲法学者として「違憲」発言をした長谷部恭男早稲田大学教授のインタビューを伝えた。
6月9日は、砂川事件を資料映像で振り返り、再度長谷部教授の「砂川判決では集団的自衛権は争点になっていない」とする談話を紹介した。
6月10日は、憲法違反とする研究者が217人に増えたと伝え、「合憲」と主張する西修駒澤大学名誉教授と、違憲とする長谷部教授の見解を対比させ、整理した。
この日、岸井アンカーは、「政府が根拠としている砂川判決も72年見解も集団的自衛権行使の根拠になりえない。政府与党の論理は破綻してきている。無理に無理を重ねて、とに角憲法に合っていると、あるいは専守防衛だというために、どんどん綻びが出てきている」と批判した。
安保法案の根拠として、砂川判決が持ち出された以上、それがどのようなものか、報道機関として調査するのは当然のことである。「報道ステーション」「NEWS23」はこの当然の取材をしたものと評価できる。この種の検証報道は「ニュースウオッチ9」「ニュース7」には見当たらない。
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