感動した山田洋次監督の「母さんと暮らせば」
山田洋次監督の新作映画「母さんと暮らせば」が封切られたので早速見に出かけた。12時5分にミッドランドスクエアに着いたので、10分からの部には間に合ったが、席は通路より前しか空いていなかった。仕方なくそこにしたが映像が覆いかぶさってくる感じであった。
事前に原爆で亡くなった息子が亡霊となって出てくるということを知っていたので、どのように描かれるのか興味を持っていた。
二宮和也という俳優については全く知らなかったが、彼が演じる福原浩二という息子は、普通のリアルな人間として登場し、母親の吉永小百合と普通に話をした。
二人の会話を中心にして、原爆の悲惨さや戦争の惨さ、愛と恋などが描かれていた。感心したのは、山田監督の映画の構成の仕方とセリフの選び方である。
福原家のふたりの息子のうち長男はビルマで戦死したという設定で、次男は医学生であったが、8月9日の原爆投下によって、他の学生などとともに一瞬にして命を奪われてしまったのだ。
また浩二には黒木華が演じる町子と結婚を約束していた。戦時中あの年齢で?と思うが、あり得ない話ではない。その町子が浩二に操を守り生涯結婚しないと決めていたが、母の説得や浩二の考え方の変化を受け入れて、最後は同僚の教師と結婚することになる。その相手も戦争で片足をなくした青年という設定だ。町子や母伸子や浩二の悩みを通して恋や愛の姿を巧みに描いている。
戦争についても、兄の戦死や原爆で一瞬に命を奪ったことなどを通して描き、思わず涙が出る場面がいくつもあった。冒頭で長崎に向かう爆撃機の操縦室が描かれ、「本来は小倉に落とすはずが、天候が悪いので長崎に変更されたことや、その長崎でも雲の晴れ間ができたことで原爆が投下された」というナレーションがあった。運命が明暗を分けたのだが、その運命について語る場面があった。(内容は忘れてしまったが)
母伸子を助産婦としたのも、新しい命の出産と対比して原爆や戦争で簡単に命を奪うことのむごさを描いたのだと思う。また赤ん坊の誕生や町子の結婚は生きている者の未来への希望でもあるのだ。
叔父の闇商人の存在も映画の大きな部分だと思う。戦後すぐの時代闇物資は大切な命の綱であった。その仲介をする闇商人には、えげつない人も多くいただろうが、叔父のように人情みのある人もいたのだ。
吉永小百合は母伸子を見事に演じている。さすがだと思った。戦前戦後のあの時代の女性の仕草、心情をきちんと表現している。きれいでつつましやかでそれでいて芯のある女性像となっている。吉永以外には適役はいないのではないか。
この映画を観ながら最後はどのような結末となるのか大変気になった。しかし、伸子を心臓か何かに弱い女性と設定することでファンタジーな終わりへと導いた。最後に地元合唱団が歌う場面が出てくるが、山田監督の拘りだと聞いた。
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