安保関連法案国会審議・テレビニュースはどう伝えたかー⑬―
3、法案に関連する重要事項について、独自の取材による調査報道はあったか
この期間のテレビニュースには、国会審議や、政局の報道だけでなく、安保法案の争点に関連した事項について、独自の取材に基づく調査報道で、視聴者の政治的判断に資する情報の提示が求められていた。
この点では、「報道ステーション」と「NEWS23」が数多くの独自取材を行い、有用な情報を提供していたのに比べ、NHKその他の民放ニュース番組は、調査報道が皆無とは言えないものの、極めて少なく、ほとんどないに等しいものだった。
以下、各番組の調査報道の事例を挙げる。
1)「NEWS23」
「NEWS23」では9月22日までに「変わりゆく国×安保法制」という企画番組を40回放送している。その中から3つの例を挙げておく。
◆自衛隊の“前線”でみたもの(7月22日放送)
アフリカ南スーダンでPKO活動に携わる自衛隊員を取材したリポート。任務は道路の補修などインフラ整備にたずさわること。彼らは丸腰で、見張り役が拳銃を持っているだけだ。しかし、南スーダンは今内戦状態にある。その監視のためにはネパール軍がパトロールにあたっているのだが、武装勢力の奇襲を受け、隊員が負傷したこともある。取材班はネパール軍のパトロールに同行するが、途中危険があるとして、撮影禁止に遭ったりする。
安保法案では、PKO活動に治安維持や、他国軍の防護という新しい任務が加わる。安倍首相は「国家あるいは国家に準ずるものが登場してこないことが原則ゆえ、武力行使に発展することはない」というが、治安維持に手を染めることで、リスクが増えることはこのリポートから十分読み取れる。
憲法9条のもとで行ってきたPKO協力。その歯止めを外した時の自衛隊の近未来の姿を予測させるに有効な企画だと言える。
◆船舶検査法改正で「テロとの戦い」(8月5日放送)
まず岸井アンカーが10本を束ねた「平和安全法制整備法案」の中に「船舶検査法」なる法律もあることを紹介した。
膳場キャスターは、「政府与党は衆議院で116時間という十分な審議時間を確保したといっている。しかし、この中で船舶検査法に直接触れたのは、たった3分のみ」と指摘した。
そのあとジブチのルポを伝えたが、その中で、現在日本がジブチで行っているのは海賊対策だが、駐留する世界30か国の軍隊はテロ対策のための船舶の臨検を主な業務としていて、それがテロの資金源となる麻薬密売の摘発が主要な任務であることが明らかにされた。
取材班は臨検に向かうオーストラリア軍に同行し、停戦を命じた船によじ登る兵隊たちの姿を取材した。いつ甲板から狙われてもおかしくない危険な作業である。日本も法律が改正されればこの地域で船舶検査も行うことになる。
「NEWS23」では、6月にジブチの拠点での自衛隊員の暮らしぶりを紹介しているが、その時岸井氏はジブチは単なる拠点ではなく、基地だと断言していた。
なお、このジブチの海賊対策のトップに日本の自衛官が就任している。国会でのたった3分の討論、しかし、現実は国会審議を先取りする形で、すでに布石が着々と打たれていることがこの報告から判明した。
それにしても、船舶検査法の審議にわずか3分しか費やされていないとの発見はこの番組のスクープとも言える。
◆“日本を操る男”が見た安保審議(9月2日放送)
3年前アメリカのシンクタンクがまとめた提言書がある。俗に、アーミテージ・ナイノートと呼ばれるもので、その内容には、集団的自衛権行使容認を始め、日本の自衛隊について、今回審議の対象になった事柄がそっくり盛り込まれていた。TBSはその中心人物、アーミテージ元国務副長官との単独インタビューに成功した。
「日米で共同して何かを行うために議論し始めると、必ず憲法9条がバリケードのように道をふさぐ。時は流れ、状況も変わる。憲法の解釈も変えることができる。内閣法制局の解釈の変更でもそれは可能だと思う」とアーミテージは番組の中で語っている。
憲法9条にまで話が及んだのは、つい口が滑ったのかもしれないが、こうした本音を引き出し、法案がアーミテージ・ナイノートと一致点が多いことをあらためて暴露した価値の高いスクープインタビューだった。
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