アメリカには褒めてもらえた安倍談話だが
安倍首相が14日に出した戦後70年の談話(安倍談話)に対して、アメリカは国家安全保障会議(NSC)が評価するネッド・プライス報道官のコメントを出した。
「戦後70年間、日本は平和や民主主義、法の支配に対する揺るぎない献身の行動を示しており、すべての国の模範だ。安倍首相が、大戦中に日本が引き起こした苦しみに対して痛惜の念を示したことや、歴代内閣の立場を踏襲したことを歓迎する」と。
安倍談話を読む限り、確かにこのコメントにあるような文言はある。中国や韓国の反応はどうか知らないが、インドネシアやオーストラリアは好意的なコメントを出した。
安倍首相としては一番気になるのが米国の反応だから、これでひとまず胸を撫で下ろしたことであろう。
だがこれまでの村山談話や小泉談話を継承したという点については、村山元首相は「引き継がれた印象はない」と言っている。また、三谷太一郎東大名誉教授も「談話全体として言えば、私たち(74人の国際政治学者や歴史家)が7月に出した共同声明で求めた『村山談話』や『小泉談話』の継承とは程遠いと指摘している。
これは安倍談話にある次の表現から曖昧さが読み取れる。
①「事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。植民地支配から永遠に決別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない」
②「我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました」
③「こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります」
①の文面は一般論としての教科書的な説明になっている。だから日本の過去の侵略や植民地支配をぼかし、帝国主義国家のどこにでもあてはまるものとなっている。
②は村山談話や小泉談話を指すのであろうが、安倍総理自身の本心は隠したままである。心の中では、前の首相はそう言ったけど俺は違うよと言えるのだ。「安倍内閣として、村山談話をそのまま継承しているという訳ではない」(2013年4月22日)と述べていたのだ。
②で「先の大戦における”行い”という表現も気になる。「行い」とは何を指すのか。極めて抽象的で軽い言葉である。「その思いを実際の行動で示すため、インドネシア、フィリピンをはじめ東南アジアの国々、台湾、韓国、中国など、隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み、戦後一貫して、その平和と繁栄のために力を尽くしてきました」と続けている。
「苦難の歴史」を与えたのは誰かという主体が欠落している。自分たちでそういう歴史を持ったというような表現である。具体的に中国などアジア諸国を侵略したとか、韓国を植民地支配したとか述べるべきである。それでなければ「お詫び」にはならない。
談話の中に、「侵略」とか「植民地支配」とかが入っていても、日本が他国に与えた責任がぼかされているので、③で、「歴史的立場は、揺るぎないものです」と言っても非常に弱いものになっている。
安倍首相にとって、談話を出すことは悲願だったと言われるが、ここまでくる中で随分揺れた。閣議決定をしないことにするとか、未来思考を強調するとか、揺れまくった。そして有利な提言をしてくれると期待した有識者会議「21世紀構想懇話会」を立ち上げたりしたが、会議では従来の安倍首相の主張とは異なる歴史認識があいついで出された。
安保法案を通すためには談話で首相自身の主張に拘ることは避けた方だ賢明だと考えたのだ。公明党の顔も立てて、今回の談話に落ち着いたのだ。
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