転載「タラの木のふしぎ 末期がんからの生還」(河村光恵著)⑥
(10) 風習とはいえ許せない数々 、
「お前のために俺は働いて居るんだぞ!」と言い続けられ、その上私を暗い内から叩き起こし働かせ、難産で退院した次の日ですら、苦しいからと言っても
「ぼつぼつで、いいで働け!」
と言い働かされてたのです。それなのに全財産を渡された時には、夫の治療費がやっととは・・・ガンのショックの上に又も私は、二つ目のショックに出会ったのです。
暫くしてやっと気を取り戻し、
「わかった・・・」
と返事をしました。次男の土地を買い家は建ててありましたが、あとは山を売った金が次男の結婚式のために別にしてあっただけでした。それと夫の反対を押し切って私が借金をし、値上がりを見越して買った土地が三百六十五坪あっただけでした。老後の生活資金のためにと、寝る間の時間に編み物をし、漬物を漬け昼休みに売り歩き、買っておいた私の土地だけだったとは
(11) 子を思う父 父を思う息子
暫くして夫は、
「今夜がこの家の最後かも知れない!」
としみじみ言いました。そして夫は自分に言い聞かせるように、
「でも看護婦さんが、『早く見つかって良かったね・・・』と言ってくれていた・・まだ手遅れじゃーなし・・がんばるしかない!」
と言いました。私も、
「そうよ!修治が嫁を貰うまではね!」
と言ったのです。
「うん・・・」
と答えた夫は、悲しさがこらえ切れず、急に怒り出し、
「修治の馬鹿が、早く嫁をもらわんで、おれは死ぬ事も出来ん!」
と言って声を上げて泣きました。私もただ、ただ、泣きに泣きました。
次男は自分の事で父が悲しんでいる事を知り悔やんでいました。それを知った長男は弟に、
「修治! 何を言っている!お前に嫁がなかったお陰で父さんは生きる気力が出たのだ!良かったのだぞ!」
と慰めていました。
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