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2013年9月11日 (水)

「風立ちぬ」を見て

 宮崎駿監督の最後の作品、「風立ちぬ」を見に行った。ちょうど宮崎監督が引退表明をした日と同じ日であった。 私はいつも予備知識なしでサラの状態で映画を見る。今回も同じであった。

 名古屋駅前のミッドランドスクエアシネマに行ったら、15時からの上映は前列のA,B列しか空席がなかった。仕方がないのでB列の真ん中辺りにした。スクリーンが目の前にあって大変見づらい席であった。

 映画が始まったが、場面が急に変わるので前の場面とどういうつながりがあるのかが分かりにくかった。最初はどうやら二郎という少年が大変優しい人物であることや飛行機に夢中であることを描いたものと思われた。

 夢のシーンだと思うのだが、イタリア人の素晴らしい飛行機を設計したカプローニという人物が出てきた。少年二郎の憧れの人であるらしかった。この人は途中と最後の場面にも出てきた。ファンタジー的な色彩があると言えばカプローニと夢の中で会話をするシーンで、あとは現実的な描写の映画である。

 その点でこれまでの宮崎作品のファンタジー中心のアニメとは一線を画しているように感じた。宮崎駿の最後の作品として、彼自身を主人公二郎のひたむきな仕事への情熱に重ね合わせているのだと、引退表明の次の日の朝日新聞のコメントにあったが、私も同じようなことを感じた。

 朝早くから夜遅くまで飛行機を作ることに没頭する主人公は、ある意味でアニメづくりに精魂を傾けてきた(引退表明で述べている)宮崎自身であろう。

 この主人公堀越二郎は実在の人物である。日中戦争の頃から大平洋戦争にかけて当時世界切っての戦闘機と言われたあの「零戦」を作った男である。この映画の中では「0(ゼロ)」と表現されている。

 堀越二郎は技術者として、ただただ速くて燃費が良くて操作性のよい戦闘機を作りたかっただけであるが、結果として昭和17年以降、零戦を研究したアメリカの物量に負けてしまい、特攻隊員を始めとする多大な人的犠牲をもたらすことになったのだが、この映画では累々と横たわる残骸でそれを暗示している。

 実在の人物に焦点を当てながら、そこにフィクションとしてのロマンスを取り入れている。そのロマンスは、堀辰雄の小説「風立ちぬ」をもとにしたもので、二郎の恋人となる里見菜穂子をそのまま使っている。

 ロマンスのきっかけが関東大震災で、その時二郎は東京帝国大学学生であった。関東大震災はおそらく東北大地震を念頭に置いてのものであろう。その震災(1923年)の時に少女であったお金持ちの令嬢菜穂子と出会うのだ。

 二郎は名古屋にあった会社三菱内燃機に就職し、戦闘機の設計に没頭することになる。ある日軽井沢に行ったときに、そこで偶然に奈穂子と再会をし、それがロマンスへと発展するのだ。大変ロマンチックな羨ましいようなエピソードであるが、その時奈穂子は結核を患っていたのだ。それでも二人は互いの愛を受け入れるのであった。

 映画だからそういうエピソードがないと面白みがない。宮崎は堀越の子どもたちの了解を得て堀辰雄の小説から取り込んだことを映画の終わりに断っている。

宮崎駿監督のアニメは全て手書きだと聞くが、いつ見ても大変美しい。私が好きなのは山や野原などの風景とか街並みである。空も美しい。また、家の入口などがクローズアップされた画像も板目や取っ手などでも非常にリアルである。

 ところで「風立ちぬ」の公式ホームページには次のように書いている。

 「かつて、日本で戦争があった。

 大正から昭和へ、1920年代の日本は、不景気と貧乏、病気、そして大震災と、誠に生きるのに辛い時代だった。

 そして、日本は戦争へ突入して行った。当時の若者たちは、そんな時代をどう生きたのか?

 イタリアンのカプローニへの時空を超えた尊敬と友情、後に神話と化した零銭への誕生、薄幸の少女菜穂子との出会いと別れ。

 この映画は、実在の人物、堀越二郎の半生を描く―。

 堀越二郎と堀辰雄に敬意を込めて。

 生きねば。

 さらに詳しくは次を。

 http://kazetachinu.jp/message.html

 今の時代、バブル崩壊後、富裕層と貧困層に二極分解をし、一億中流と言われた中流が少なくなってしまった。大震災、放射能、異常気象、右傾化、高齢化社会・・・不安材料はいっぱいである。夢も希望も持ちづらい時代となっている。宮崎監督はそれでも「生きることはすばらしい」と言っているのであろう。

 ある人が「アニメを描けない時代」と言っていた(サンデーモーニング、風を読む)が、そうなのかどうかは別として宮崎監督がアニメに託した最後のメッセージである。しかし、難解な映画である。

風立ちぬの画像(プリ画像)

no titleの画像(プリ画像)

風立ちぬの画像(プリ画像)

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