マッジックを演じるとき気を付けること―松田道弘氏による―
マジックについて調べることがあって、昔買った松田道弘氏の「即席マジック入門」(筑摩文庫)を見ていたら、「演出のポイント」というコラムがあり、よいことが書いてあった。
私は、マジックの解説本については、高木重朗氏と松田道弘氏のものが双璧だと思っている。解説がとてもわかりやすく親切だからだ。
以下、引用である。
「奇術を覚えることは簡単です。
しかし、奇術を上手にやることは、とても簡単とは言えません。
奇術のやり方を知っているということと、その奇術を人前で上手に演じることは、全く別問題です。初心者はとにかく奇術のタネを一つでも多く覚えようとします。覚えた奇術の数を自慢したがります。
奇術は、タネがすべてではありません。タネを知っただけでは上手に演じることはできません。
大切なのは、どんな奇術をやるか、ということではなく、奇術をどのように見せるか、ということです。
奇術のタネはいわば推理小説のトリックのようなものです。ドラマの脚本のようなものです。それを肉付けし、生き生きとした虚構の世界を作り上げるのが演者の手腕であり、演出であります。
奇術のメカニズム―タネを十分に理解したら、次に演出を工夫してください。奇術の見せ方、演出を研究してください。
古臭いと思われている昔からあるトリックでも、組み合わせを変え演出に変化を与えると見違えるような新鮮な奇術になります。
あまり上手でない奇術師でも、客にうまいと思わせるのは、見せ方を知っているからです。逆に技術がいくらうまくても見せ方が下手なため、客にはちっとも受けないという気の毒な奇術家もいます。アマチュアに多いタイプです。
ロベール・ウーダンの名言に、『奇術師とは、奇術師の役目を務める俳優である』というのがあります。
見せ方が大事です。タネや仕掛けや技法は、奇術という効果を達成するための、単なる手段に過ぎません。
そして、最後に自分の個性にあった演出方法を考えてください。」(P.135)
奇術(この頃ではマジックということが多いが)の種類は10万とも15万とも言われている。マジックの解説本に出てくるのは、古い、ほとんどがよく知られたマジックばかりである。それは、マジックのタネは守られなければならないという不文律があるからだ。だから公開されたタネをもとに本を書くのだ。
しかし、マジックは古いから駄目だということはない。古くてもよいマジックはあるし、演じられなくなったマジックは新しいのだ。古い人間は死に、世代がどんどん更新していくから、若い人は古いマジックを知らない。だから新しく感じるということもある。
松田氏が、古いマジックでも演出で新鮮なマジックになると言っているのは演出、見せ方が重要だという指摘である。心しておきたいことである。
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コメント
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コーラスでも同じですね。指揮者にいつもにこやかにと言われています。おっしゃるように、練習をしっかりして初めて余裕も出てくると思います。
先日も、練習をしたはずなのに、本番で緊張していることが分かって、そちらに気を取られていて間違ってしまいました。演じるということは難しいです。
投稿: らら | 2012年5月28日 (月) 08時57分
マジックに限らず人前で何かを演ずる人にとっては大変説得力のある内容です。当然のことながら演じる人は演ずる課題をしっかり練習することが第一です。そうすれば心に余裕ができます。(練習の出来が200%であれば仮に本番で50%しか力が出せなかっても100%の出来ではないかという名人の話を聞いて妙に納得したことがあります。)次に一所懸命演じているいるだけでは見るお客さんは却って疲れます。マジックの場合はにこやかに慌てず、リズムに乗って楽しそうに演じていると技術がより引き立って見えるように思えます。理屈では分かりますがやはりこのことを意識しながら何度も舞台に立つ、すなわち場数を踏むことにつきると思いますが、、。
投稿: Toshi | 2012年5月28日 (月) 08時03分