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2011年11月 6日 (日)

サンマで育つ

 私が高等学校卒業までいたところは、和歌山県新宮市である。先だっての南紀州豪雨では、連日報道された。熊野古道にも関係がある山紫水明の街である。

 高等学校の先輩(といっても前身の新宮中学であるが)に有名な文豪佐藤春夫がいる。彼の詩に有名な「秋刀魚の歌」がある。

 南紀州には勝浦漁港があり、秋の終わりごろからはるばると南下してきた秋刀魚の漁が盛んになる。

  この辺りで獲れる秋刀魚は、北海道や東北で獲れる秋刀魚と違って脂が少ない。それを丸干しにしたり、開きにしたりしている。丸干しはまさに刀である。秋刀魚という字を誰が当てたのか知らないが、よく言ったものである。

  南紀州の辺りでは、サンマのことを「サイラ」と言っていた。面白い方言である。

 私は、子どもの頃は、シーズンになると毎日秋刀魚を食べた。それだけよく獲れたのであろう。朝食と夕食の2回秋刀魚を食べることもあった。それでも秋刀魚には飽きなかった。

 生の秋刀魚は、半分に切って鍋に入れて煮た。砂糖はないから醤油の味付けであった。また、コンロの炭火で丸焼きにすることもあった。昨今は備長炭がもてはやされているが、当時はみな備長炭を使っていた。

 中学や高校の頃は弁当のおかずに秋刀魚が入ることもあった。

 あの地方の正月のお節料理に欠かせないのが、秋刀魚寿司であった。暮に秋刀魚を買って甕に入れて酢と塩で漬けておいて、寿司飯を秋刀魚の形にした上に秋刀魚をのせるのだ。それを切って大きな皿に盛るのである。

 3ヶ日はどこの家に行っても秋刀魚寿司であった。今は土産物として売られているが、本来は家庭で作るものであったのだ。

 秋刀魚を嫌というほど食べてそだったせいか、今でも秋刀魚が大好きである。秋刀魚を見ると買いたくなる。でも、妻は余り喜ばない。先日も、「お父さんは、サンマ、サンマとうるさい。」と言った。

 しかし、サンマは安いし青身魚で健康にもよい。

  秋刀魚の歌   

       佐藤春夫
 
 あはれ
 秋風よ
 情(こころ)あらば伝えてよ
 ―― 男ありて
 今日の夕餉に ひとり
 さんまを食ひて
 思いにふける と。

 さんま、さんま、
 そが上に青き蜜柑の酸をしたたらせて
 さんまを食ふはその男がふる里のならひなり。
 そのならひをあやしみなつかしみて女は
 いくたびか青き蜜柑をもぎ来て夕餉にむかひけむ。
 あはれ、人に捨てられんとする人妻と
 妻にそむかれたる男と食卓にむかへば、
 愛うすき父を持ちし女の児は
 小さき箸をあやつりなやみつつ
 父ならぬ男にさんまの腸をくれむと言ふにあらずや。

 あはれ
 秋風よ
 汝(なれ)こそは見つらめ
 世のつねならぬかの団欒(まどい)を。
 いかに
 秋風よ
 いとせめて
 証(あかし)せよ かの一ときの団欒ゆめに非ずと。

 あはれ
 秋風よ
 情(こころ)あらば伝えてよ、
 夫を失はざりし妻と
 父を失はざりし幼児とに伝えてよ
 ―― 男ありて
 今日の夕餉に ひとり
 さんまを食ひて、
 涙をながす、と。

 さんま、さんま、
 さんま苦いか塩っぱいか。
 そが上に熱き涙をしたたらせて
 さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。
 あはれ
 げにそは問はまほしくをかし。

 

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コメント

イオンでは、98円。大須のサノヤでは66円。店によって違いますが、今年は高いようです。

サンマは私も大好きで、子供の頃はシーズンになると毎晩のように食卓に載りました。脂の乗ったサンマははらわたも美味しいので殆どまるごと食べました。
値段も確か10円くらいだったと記憶しています。
今年は大震災のためにサンマが捕れても三陸海岸では
処理しきれないせいか、出荷量が少なく、スーパーでは150円から200円くらいするようです。
従って食卓にのる回数も例年ほどではありません。せめて100円以下で買いたいものです。

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