曽野綾子著「老いの才覚」を読んだが―①―
作家の曽野綾子さんが著した「老いの才覚」という本が広く読まれていると聞いて、図書館に借りる予約をしておいたら、やっと順番が回ってきた。申し込んでから5ヶ月以上かかった。相当人気があるようだ。
読み始めて、幾つかの点で?と思うところがあった。その一つは、
「戦後の教育思想が貧困な精神を作った」(p.23)で、「戦後、日教組が、何かにつけて『人権』『権利』『平等』を主張するようになりました。その教育を受けた人たちが老人世代になってきて、ツケが回ってきたのだと思います。」
と書いて、権利ばかりを主張し、遠慮というものがないという老人の例をあげて、「『損をすることには黙っていない』というのも、日教組的教育の欠陥です。」と言っている。もともと人間は本能的にがめついのだから、わざわざそういう教育をする必要などないのだというのだ。
彼女は、日教組を頭っから毛嫌いをしているようだ。アカというコトバは使っていはいないが、かつて戦争反対を唱えた人びとや、資本家に反対をして労働者の権利を主張した連中に、アカというレッテルを貼ったのと酷似している。
つまり、日教組=悪(アカ)という考えが植えつけられているのだと思う。
そもそも基本的人権は、戦後日本国憲法に明記された、人間としての当然の権利である。現人神としての天皇を先頭に立て、戦線を拡大していった戦前の政治や社会や教育の反省の上に、戦後の民主主義があるのだ。
子どもや弱者や農民や労働者やなどが自分の生存権を主張するのは、その権利が抑えられて実現できていないからのことであった。人権も平等も権利も法律に書いてるからそれでよいというものではないのだ。絶えずそれを点検し、正していかなければ獲得できないし守れないものなのだ。
「子どもの権利条約」批准されたのだって僅か17年前だったではないか。(1994年発効)
戦後、経済成長ととlもに一家の働き手である男性は、家庭をかえりみずひたすら会社のために働くことを余儀なくされた。また、子どもは進学競争によってゆがんだ勉強を強いられて正常な人間性を高める教育から遠ざけられた。
物を大切にせず、使い捨ての風潮が広まった。そして自己中心的な考え方も蔓延した。
その後バブルがはじけて、失われた20年が続いているが、その中で今度は正社員が激減し、パートタイマーや派遣社員などの非正規労働者が急増した。不安定な雇用状態は相変わらず続いている。
年収が200万円にもみたない貧困層が増加し、生活保護を受ける人たちも増加の一途である。
その過程で校内暴力、学級崩壊が起き始め、家庭内暴力が増え、モンスターペアレントやクレイマーやキレ易い老人が増加していった。
そうしたことはみな日教組のせいだと言いたいようだ。だが、私はそうは思わない。むしろ政治の責任であり、それに寄りかかって利益第一主義を進めてきた企業の責任でもあり、コマーシャリズムの俗悪文化を助長してきたメディアにも責任の一端はあると思う。
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随分心の乏しいコメントが多いこと。
利己的というか・・・。
近未来の事を考えれば、団塊世代が死に絶え、日本人の人口が激減すればたちまち人手不足が生じる。
そうなると、外国人労働者に頼らざるを得なくなり、当然能力のない者、意欲のない者が排除される世の中になるだろう。1000兆円もの借金を未来の子供達に残さないためにも、労使協調し国を支える覚悟を持たないともっとひどい目に会うのが想像できないのだろうか?
曽根氏の警告はもっともで、歴史認識を事実から遠のけた戦後復興時の日教組の思想は、もはや時代遅れだ。他国では生きるか死ぬかの生活環境で、それでも強い愛国心を抱いているというのに、平和ボケしたわが国では、いまだに目が覚めぬ愚か者が私腹を肥やそうとしていて、国益を考えない。
もう終わりにしないか?
投稿: | 2014年1月 8日 (水) 01時50分
教師ですからね
人権・平和・平等とかのまえに「教養」「道徳」を教えるべきでは?
権利ははどこまで誰に求めるのですか??
そのへんの人たちがいきなり戦争起こそうとして起こせますか?あなた戦争できますか?
平和をおびやかせますか??
平等は誰の視点から見てですか?どこまで平等を求めますか??
職場でそんなに人権のことばかり言ってるやつがいたらびっくりします、ふつう就職できませんよ
しかも公務員が権利主張したら民間が苦しくなるだけ
そういうバカを囲ってるのが日教組なんだから、もう目を醒ましてください
人権の前に謙虚さ
平和の前に道徳、愛国心
平等の前に協調性
このへんを教えたほうがはるかに国という社会は豊かで平和になりますよ
平和で豊かな国に生まれるとありがたみに気づきませんか?
無人島にでもみんなでいってそこで人権やら平等を唱えたらいかがですか?
僕は戦前の日本も好きだし、道路掃除とかあいさつ運動もしてますよ
むしろ外人がゴミ捨て場にてきとうにゴミを捨てる権利を主張してるのを見て、日教組に教わってもないのに優秀だな~と思いました
投稿: 子は鎹 | 2011年9月10日 (土) 01時24分
「老いの才覚」を読み始めて、すぐに違和感を覚えました。独断と偏見が感じられる部分があったのです。現在の高齢者(私たち)に対するさげずみのようなものも感じます。100万部ベストセラーズだというのですから私には?です。
投稿: らら | 2011年8月19日 (金) 08時34分
私は曾野綾子氏の随筆、評論はよみたくないので読まないとおもいます。
以前に読んだ時、非常に偏った独善的なものを感じました。
キリスト教の信者のなかには選民意識の強い人があります。 曾野氏がそうだと言う訳では有りませんが、とても独善的なものを感じるのです。
戦後の反省にたって自由、平等、権利、勿論それに伴う義務も有りますが、社会は一応横社会で民主主義だと言う事になっていますが、現在は変貌しつつあるのを感じます。
私の周りの人は今をしっかり生きようとしています。
投稿: maron | 2011年8月19日 (金) 03時40分
石原都知事に通じるところがありますね。本当に被災した人の気持ちを理解しているのか、また、高齢者のことを理解しているのか疑問です。戦前の修身教育と同じものを感じます。
投稿: らら | 2011年8月18日 (木) 17時42分
「老いの才覚」が100万部も売れているとは!まさしく曾野氏がいう無知蒙昧な老人が増えているからなのでしょう。あんな本を有難がるのはリテラシイーが低いことの証明です。
あの本で、金がなければ野垂れ死にも覚悟と勇ましいことを言っていますが、その心配が全くないから言えるのでしょう。
投稿: らら | 2011年8月18日 (木) 17時38分
おっしゃる通り、悪いことは何でも日教組のせいにするのは、戦前のアカ攻撃に似ていると思います。
私の住んでいる県では、日教組は四十数年前に組合攻撃で弱小化してしまいました。そのため大体、文部省のいいなりの教育が進められてきました。曽野綾子氏の言うことが正しければ、私の県には、権利ばかり主張する老人はいないことになります。
曽野綾子氏は、「被災者は甘えるな」とか「東電に責任はない」「放射線の強い所には、じいさん、ばあさんを行かせればいい」と発言している人です。
余命短い老人が放射線汚染地域に行くことも「老いの才覚」なのでしょうか?
投稿: takao | 2011年8月18日 (木) 16時23分
この本は100万部を超えるベストセラーだそうですね。4人に1人が高齢者(65歳以上)と言われる時代を迎え、高齢者の生き様が社会に大きな影響を与えるような時代ですので、こうした警世?の書が出版され読まれることはいいことだと思います。
(読む人は問題ないと思いますが、、、)
以前、暴走老人という本が大変な話題になりクローズアップ現代でも取り上げられました。歳をとると誰もが穏やかになりもの静かになるというのは私たちのまたくの思い込みで、突然、感情を爆発させたり、切れてしまう老人が増えてきたと、具体的な事例があげられていました。その原因は老人を取り巻く社会環境の
急激な変化、曰く孤独化、貧困化、IT化等が老人の
苛立ちを募らせていて、ある日突然爆発するという図式でした。確かこれには日教組を中心とする戦後教育の欠陥がこうした現象を生み出しているとまでは、当然のことですが、言及されてませんでした。
暴走老人の事例は極端にしても、老いの才覚で著者が指摘するような考え方、行動は思い当たるふしが多分にあるので十分に自戒したいと思います。
投稿: Toshi | 2011年8月18日 (木) 09時17分