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2011年2月23日 (水)

芥川賞「きことわ」を読んで

 第144回芥川賞受賞作品の「きことわ」を読みました。受賞者の朝吹真理子氏は慶応大学大学院生でフランス文学の大家の家系で、もう一人の受賞者、西村氏とは対極にあるようです。でも、そういうことは文学賞の受賞とは関係がないことで、本人の資質と才能とが評価されたのです。

 最初、「きことわ」が受賞したと聞いたとき、その題名に「なんのこと?」と思いました。新聞で「きこ」と「とわこ」という2人の女性の名をくっつけたのだと知り、納得しました。

 「きことわ」は、小説を読むと貴子と永遠子という漢字だとわかります。この小説は時間というものが1つのテーマになっているらしいし、朝吹氏も何度か時間の感覚に関心があると言っているので、主人公の名前もそんなところから付けたのかなと思います。

 冒頭、「永遠子は夢をみる。貴子は夢をみない。」で始まるので、夢も大きく絡んでくると予想させます。実際、読み進めると永遠子のみる夢が語られます。それが現実との区別が分かりにくいところがあります。貴子の夢は最後に出てきますが、それは「夢をみたことはすぐに忘れていった。」で小説が終わるのです。

 2人の髪の毛も何度か登場します。2人は髪の毛を梳かしあったり、そうしているときに絡んだりします。また、影としてもつながっているようにみえる場面もあります。「きことわ」と名前をくっつけてあるのは、そうしたことと関係があるようです。

 貴子の髪が誰かに後ろに引っ張られたような感覚を受ける描写があり、その後で永遠子も髪の毛が引っ張られて事故を起こしそうになる感覚が描かれます。真に奇妙なファンタジックな描写です。

 2人は10歳の年の差がありますが、子どもの頃は、貴子の葉山の別荘でいつも一緒に仲良く過ごします。それが25年の時を隔てて別荘を売却することから再会をします。そのとき貴子は30歳、永遠子は40歳になっています。どうして仲がよかった二人が25年もの間音信不通になっていたのかはわかりません。

 前の部分では、子ども時代の二人が描かれ、後の部分では再会した2日間のことが描かれます。その中に時間が昔へ飛んだり、宇宙に飛んだり、未来に飛んだりして貴子と永遠子の両側から心象風景が描かれていきます。

 それが食べ物のことであったり、虫のことであったり、雪の結晶のことだあったり、星のことであったり・・・・するわけですが、その描写が微に入って詳しいのです。朝吹氏は、体験ではないと言っていますから、ほとんどがフィクションなのでしょうが、その想像力は凄いと思います。想像し構成する力には感心します。

 でも、詳しすぎるが故に私には苦痛でした。boringと心の中で呟きながら何とか読み終えました。ワクワク、ハラハラ、ドキドキ・・・と言ったものがまるでないのですから。その点「苦役列車」は、知らない世界を覗くようなものがありまだ読みやすかったです。

 それと、「きことわ」にも、初めて見る漢字や言葉が割合たくさんでてきます。作者の朝吹氏が、インタヴューでほかの人の書いたものに知らないような言葉や漢字を見つけるのが好きだと述べていることでガッテンしました。

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