「葬式は、要らない」―⑤―戒名について
戒名はもともと出家した僧がその証として授かるものであった。一般の俗人が戒名を貰うのはおかしな話なのだ。あの世に行くパスポートという説明(千代山宗園、曹洞宗)やブッディスト・ネーム(ひろさちや)という説明のしかたもまやかしである。
死んでから戒名を貰ったからといってその人が出家して仏に帰依したことにならないことは明白である。極楽浄土が仮にあるとして、往生(そこに行って生きること)するのに戒名がパスポートのように大事なものではない。戒名などなくても極楽往生はできるのである。そもそも戒名が俗人にも付けられるのは日本の仏教だけである。
日本で最初に戒名をつけたのは聖武天皇で「勝満」というのだそうだ。平安時代のあの栄耀栄華を誇った藤原道長は「行覚」だという。(P.90)2人とも出家得度をしているから問題はない。
戒名が日本に定着したのは、島田氏によると、「江戸時代に『寺請制度』が導入され、檀家である証として戒名を授かることが義務となったのである。」(P.101)
「寺の側は、『宗門人別帳』を用意し、檀家の家族構成、それぞれの生没、結婚、旅行、移住、奉公人の出入りなどを記入した。これによって一般の庶民と仏教寺院の関係が密接となり、檀家は葬式や法事、墓地の管理などを寺に任せるようになる。」(P101)と書いている。
つまり、仏教寺院が戸籍の管理を代行したのである。ただ、キリスト教や日蓮宗の一派など幕府に都合が悪い宗教は排除された。そこには信教の自由はなく、強制的に幕府公認の寺院に属することになったのだ。
戒名は誰が付けるのか。一般的には檀那寺の僧がつけるものと信じられている。ただ、都会などに移住している場合は臨時に頼んだ僧がつける。だから往々にして檀那寺との間にいさかいが起こることがある。
島田氏によると、仏教のどの宗派も僧に対して戒名の付け方の指導はしていないのだそうだ。だからそのためのマニュアル本やパソコンソフトまで販売されているのだという。
それよりももっと大事なことは、戒名は誰がつけてもよいということであり、本名のままでもよいということである。
私の母方の実家は神道だから、戒名はなく、墓標には、男子は○○翁、女子は○○刀自と本名を書いてある。考えてみれば、本名の方がその人のアイデンティティがあり、訳のわからない戒名よりはるかによい。
戒名は誰がつけてもよいのだから、自分でつけた人もいるという。
有名人では作家の山田風太郎は、生前に自分で「風々院風々風々居士」とつけたという。
家族でつけた例では、鉄道ライターの宮脇俊三の「鉄道院周遊俊妙居士」である。ぴったりの戒名をつけている。
明治時代でも、森鴎外は自分の母親や友人の詩人・上田敏の戒名をつけたそうだ。
檀那寺などの僧によって、高い戒名料を支払ってつけて貰うのだが、日本の僧は殆ど妻帯をし、酒を飲み、金儲けに走る破戒僧である。高僧の中にも女遊びだってやる者がいる。そんな破戒僧に偉そうに戒名を付ける資格があるのか。
戒名を欲しければ自分でつければよいし、何より本名が一番よい。島田氏もそう書いている。大賛成である。
次は、戒名のランクと値段について。
―つづく―
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コメント
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この本を読んで、戒名を自分でつけたり、本名にしたりできることを知りました。死後の自分の名前も人任せにしない方がよいと思いました。
投稿: らら | 2010年2月24日 (水) 15時16分
実家の母が7年前に亡くなり遺言に自分の戒名を指定してあったと兄が言っておりました。その時戒名を自分で決めて逝ける事を知りました。亡くなった人はもう何もしなくてもいいですが、後に残された人はまだ本能や煩悩がいっぱいですから
忙しいですね。
投稿: 長谷部文子 | 2010年2月24日 (水) 09時40分