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2009年3月17日 (火)

うつくしく、やさしく、おろかなりー私の惚れた「江戸」を読んで (3 )

三行半を書いたのは誰か―杉浦日向子の「私の惚れた『江戸』」から

 以前は、女性は、「三界に家なし」、「子にあっては親に従え、嫁しては夫に従え、老いては子従え」、と言われたものだ。

 しかし、そういう美徳を強いられたのは、僅か人口の一割の武士階級と上流町人だけであったようだ。

 江戸では、家名も無く資産も無い裏長屋の住人のカカア大明神は、夫にも子にも縛られず自由奔放に逞しく生きたのである。

 カカアの殆どは仕事を持っていた。今で言う職業婦人である。違うのは、今の共稼ぎと違い、自分が働いて得た金を家計の足しにはしなかった。何故なら妻子を養うのは夫の唯一の使命であったからである。

 専ら自分のために働き、自分の楽しみにお金を使い、金を貯めたそうだ。経済力があったのだ。亭主より高収入の場合も多く、カカアの方が決定権を持っていた。亭主を尻に敷いていたのだそうだ。

 妻子を養う亭主は、妻子が腹を空かせなければ面目が保てた。餌を運んでくる鳥のようなものであった。その他の入り用に困ったときはカカアが勝手に工面をした。カカアの着物、手習いの費用はカカアの受け持ちであったのだ。

 江戸の夫婦は今よりも互いに自立をしていたのだ。甲斐性のある亭主は、ときたま色町に行って遊ぶことは大目に見られていた。

 江戸では、男の人口と女の人口は21であったと言う。だからオトコがオンナを見つけるのは至難の業であったらしい。現在も独身男が多くて結婚が難しいようだが、その比ではなかったのだ。

 外にはオトコが幾らでもいるし、経済力もあったから、カカアの浮気もあったそうだ。

 ◎ 馬鹿亭主うちの戸棚が開けられず

 戸棚を開けると間男が出てきてしまう。折角手に入れた女房を離縁するわけにはいかなかった。

 ◎ 間男をするよと女房強意見

 女性上位が見に見えるような一句である。

 ◎ 惜しいこと色を亭主にしてしまい

 間男の方がいいと思っていた男を亭主にしたら詰まらなかったというのだ。

 ◎ 間男が抱くと泣き止む気の毒さ

 亭主よりも間男の方に子供がなついているのだ。

 ◎ 死なぬうちから女房は人のもの

 結婚難なので、女房のあとの事を託す亭主が多かったようだが、女房は次のオトコに困ることは無かったと言う。

 どうやら江戸は女性天国であったらしい。

 今の若い女性は積極的で男性遍歴をする人も多いようだが、江戸では若い女が男を引っ掛けることが多かったようだ。

 ◎ この頃の娘の偏はけものなり

つまり、娘は狼だというのだ。

◎ 癇癪のように目をする色娘

色とは不特定多数の恋愛のことだそうだ。しかも、ヒステリックな目をする女が色っぽいというので、色っぽさには美人である必要は無かったのだ。

◎ 色娘面白いくをして太り

面白いくとは色事のことで、「く」は複数の色事を表し、太りというのは妊娠したことだという。妊娠して父親がわからないということは多かったそうだが、それで娘が傷ついたとか不謹慎であるとは捉えなかった。

◎ 目をぱちぱちで誘い出す憎いこと

娘の方が男性をリードしていたことがわかる句だ。

男の数が女の倍で、男子にとって結婚は難しく、一度運よく結婚すると離婚などとんでもないことであった。しかも、女房は仕事をして経済力もあったので、山の神になるのは当然の成り行きであったに違いない。

だから「三下り半」はカカアが亭主に無理やり書かせたのだという。「三下り半」は「再婚許可証」であったのだから、それを書かせる必要があった。コブつきでも何でも、亭主の次は幾らでもいたからだ。

一方女房に去られた亭主の方は哀れで、「次」はまずない。女房に去られたら致命的で、社会的信用を失墜し、仕事さえ失い、江戸を離れて地方で暮らす者も多かったと言う。

この十年ほど來、男性の結婚難が続いていて、今の若い人は気の毒である。その第一の理由は何と言っても収入が少ないことで、それで家庭を持つことが困難になって来ているのだ。江戸のように食べさせておけば後は女房が何とかしてくれるという気風のよさを女性に求めることもできない。今の女性は、「あわよくば三高を」と考えている。

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コメント

 よい資料を有難うございました。結婚できるほどの収入が得られない人が増えている中で、雇用問題が大きくのしかかっていることはおっしゃるとおりだと思います。少子化対策大臣は確か小渕元首相の娘だと思います。何を考えているのかも伝わってきませんね。

本日のブログで男性の結婚難に触れていたが、最近厚生労働省が発表した「21世紀成年者縦断調査」によると、25~39歳男性のうち、非正規社員でこの5年間に結婚した人の割合は12%で、正規社員(24%)の半分にとどまるという。収入からみると、「100万円未満」の男性がこの3年間に結婚した割合は8%と、「400万~500万円未満」(21%)の半分を下回った。政府が少子化対策に本気で取り組む積りなら、雇用問題にその解があることを示していると思う。

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